短期海外研修報告 Vol.3

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学んでから訪れるという楽しさ

松本 こころ

総合政策学部3年(研修当時)
研修先:ドレスデン工科大学

 写真は、ドレスデンの観光の中心Frauenkircheの前で撮ったものです。
 ここ旧市街は、周辺地域を含めた「ドレスデン・エルベ渓谷」として世界遺産に登録されていた*ほどの素晴らしい街並みですが、観光地としてはやや穴場といった印象で、人は多すぎず、治安も良いです。とはいえザクセン州最大の中核都市であり、都市の面白さと自然の豊かさが共存する素敵な街です。

 ドレスデンを研修先に選んだのは、こういった中核都市ならではのちょうどよい規模感や過ごしやすさが、私の故郷である岡山市と重なったからです。
 地図を見てみると、中央駅から少し歩いたところに大きな川があるという街の構造も似ているように思えます。
 他にも、西ドイツよりも旧東ドイツに興味があったこと、ドイツに興味を持つきっかけとなった本に出てきた二つの街がドレスデンから近かったことなど、いくつかの小さな理由が重なり、「行くならドレスデンしかない」と即決しました。

 それでは、私の視点から、一ヶ月の海外研修の一部をレポートします。ぜひ参考にしてもらえたら嬉しいです。

*「ドレスデン・エルベ渓谷」は、エルベ川の両岸をつなぐWaldschlößchenbrückeという橋の建設が大きな要因となり、2009年に世界遺産リストから抹消されました。この成り行きも興味深いです!

1. 研修についての情報

研修に行くまでのドイツ語勉強歴

 1年春:インテンシブ1
 1年秋:インテンシブ2
 2年春:インテンシブ3
 2年秋:スキル、海外研修準備コース、コンテンツ科目 ×2(大変でした)

研修中の1日の生活

 平日は毎日ドイツ語の授業です。おしゃべりが大好きで知識豊富な先生が、私たちに質問を投げかけながら喋り倒すスタイルでした。授業は12時きっかりに終わり、午後は自由時間。ツアーやイベントが開催される日もありましたが、コースには日本の学生が多かったこともあり、気になる場所には自分たちで行くことにしていました。

 トラムに乗ってAltstadtやNeustadtへ行き、街中を散策したり、公園で昼寝をしたり、カフェでケーキを食べたり。大抵スーパーで買い物をしてから寮に帰り、夜ごはんは自炊です。SFCからドレスデンに渡航したみんなで(ツアーやグループでの申し込みはありません。偶然同じ研修先を選んだメンバーです)、その日のことを振り返りながら美味しいご飯を食べました。

 現地の学生は春休み中なので、タンデムプロジェクト(インテンシブ3の授業内で行われる言語交換交流プロジェクト)で知り合った友だちとも平日に何度か会いました。日本料理店に行ってみたり、バイト先のチョコレート専門店に招待してもらったり、映画を観に行ったりしました。カラオケに行って夜遅くに帰った日もありました。

 WhatsAppなどで連絡を取り、だいたい当日か前日、早くても1週間前くらいに予定を決めるということが多かったですが、その気楽さが私の性格には合っていました。「今ドレスデンにいるよ」と言うと気軽に食事やお出かけに誘ってくれるのが嬉しかったです。ドイツの友だちの話を聞いていると、ドイツでは、とりわけ友人関係が大切にされているように感じました。シェアハウス(WG=Wohngemeinschaft)で共同生活を送る学生もかなり多いようです。

休日の過ごし方

 Deutsche Bahnに乗って、マイセンやベルリン、ゲルリッツなどの近郊の街へ出かけました。高速バスでチェコのプラハにも行きました。近くの小高い山で一緒にハイキングをしたり、友だちの家に招待してもらう日もありました。

 日曜日の午前には近くの教会へ行きました。私はクリスチャンなので、研修先でも教会に行けたらいいなと思っていたところ、日本で出会った留学生の友だちが、ドレスデンにいるという彼の友だちを紹介してくれました。礼拝後に教会の人たちと昼食を食べ、ジュースやコーヒーを飲みながらおしゃべりをしました。礼拝の内容をドイツ語で聞き取るのはまだ難しかったですが、会話には何とかついていこうと頑張りました。ちょっとしたおしゃべりは問題ないのですが、議論が白熱したりすると、皆早口になって何を言っているのかさっぱり分からなくなりました。語学学校やタンデム、インターナショナルな集まりは、ドイツ語学習者にとって貴重な環境なんだなと感謝しつつ、ネイティブのスピードや言い回しに慣れるという意味では、日常会話力はここで特に鍛えられたのではないかと思います。

 午後は家でゆっくり過ごし、疲れていない日には美術館に行きました。ドレスデンには、毎週日曜日の午後3時から6時まで、市内各所の美術館のうち週ごとに決められたどこか一つに無料で入場できるという素敵な制度があります(「Sonntags ins Museum」で検索)。

印象に残ったこと

・乳製品、フルーツ、野菜、パンが安い

 季節にもよりますが、例えばりんごは1kgで1ユーロ弱(150円くらい)でした。外食をすると高くつくけれど、生きていくために必要不可欠なものはきちんと値段が抑えられているのかなと思います。

・静かな日曜日の朝

 ドイツでは、飲食店もスーパーも、日曜日はお休みなのが一般的です。ドレスデンで日曜日に開店しているスーパーは駅構内の二店舗だけでした。飲食店は、日曜日営業の場所も割とあったように思います。公共交通機関も動いています(平日よりのんびり運転だったような気がするけれど)。とはいえ、訪問前のイメージよりは遥かに、「日曜日は休み」が徹底されていました。

・真っ直ぐ目を見て、はっきり話す人たち

 現地で出会った人たちが、あまりにじっと私の目を見つめて話をするので、はじめは少し尻込みして思わず目を逸らしてしまっていましたが、だんだん慣れてくると、とても良い習慣だなと思うようになりました。ドイツ語が未熟でも、目を見てはっきり話すだけで、伝達度は1.5倍になります(体感)。

・ヘルメットを被って自転車に乗っている人や、曲がる時に手信号を出す人が多い

 全員ではないけれど、多かったです。ヘルメットを被り、太いタイヤ(石畳や段差が多いから?)の自転車にFahrradtaschen(自転車の後ろにくっつけられるリュックサック)を付けて、街を颯爽と走っていく人たちがとても素敵でした。正直に言うと、これまで自転車に乗る時にヘルメットは被っていませんでしたが、これからは被ってもいいかなと思っています。

・信号無視は多い

 車が来てなければOKという感じでした。もちろん守る人もいます。信号無視率とヘルメット着用率が同じくらいかもしれません(体感)。

・ドイツ衛生博物館とドイツ連邦軍軍事史博物館

 この二つの博物館で特に驚いたのは展示の量です。残念ながら今回の訪問だけでは回りきることができませんでした。

 衛生博物館はかつて、健康や衛生に関する知識を広く知らせる役割を担っていました。ナチスドイツ時代、優生学の普及のための教材を作成していたという過去もあります。そういった背景もあってか、展示が啓蒙的であるように感じました。例えば、植民地の人々の人体模型は、典型的な身体の特徴を誇張して作られたと思われており、それを曇りガラスの裏に展示することで模型の科学的な正確さに懐疑的な立場が示されていました。他にも、例えば「命の誕生から死まで」というテーマを様々な角度から深掘りするセクションでは、ドイツ基本法(ドイツで憲法にあたるもの)の生存権に関わる部分が壁に大きく張り出されていました。

 軍事博物館は、中世から現代までの軍事の歴史を年代順に展示したエリアだけでなく、「戦争と遊び」「軍事と言語」「軍事とファッション」といった興味深いテーマでまとめられたエリアもあったのが印象的でした。また、聖書に登場するカインとアベルの巨大な銅像や、「LOVE」と「HATE」という二種類の単語が生き物のように蠢くビデオインスタレーションなども施設の一部として展示されており、暴力と争いが続いてきた人間の歴史について考えずにはいられませんでした。どちらも、三分の一かそれ以下ほどしか回れていないので、必ず再訪したいと思っています。

 などなど、気づきをあげればキリがありません。このような目に見える形で表出しているちょっとした文化や習慣の違いは観察するだけでも楽しいですし、その背景にはどんなことがあるのだろうと考えるともっと楽しいです。

2.研修体験記

気づいたらドイツにいた

 ドイツ語を始めたのはSFCに入学してから。勉強し始めてからも、いつかドイツに行きたいなどとは特に思っていませんでした。自分の好きなことや関心のある問題の本質を考え進めた結果、「ドイツ」というキーワード(キーカントリー?)に辿り着いたというだけです。いざドイツに行くと決めて動き始めてみると、あれよあれよと出会いや学びが繋がっていき、気づけばドイツ語に囲まれた生活を送っていました。

 9月から、今度は一年間の交換留学としてドレスデンに滞在しています。海外研修でできた友だちの何人かとはすでに再会し、新生活の準備を手伝ってもらいながら、リアルなドイツを日々味わっています。ザクセンの方言も移るかも?

学んでから訪れることの楽しさ

 海外研修の、旅行との大きな相違点は、学んでから訪れるという楽しさを味わえることではないでしょうか。帰国の直前に訪れたベルリン(ドレスデンから特急で2時間)で、コンテンツ科目で研究した事例の一つであるテンペルホーフ空港跡地を訪れました。空港が閉鎖された後、どのように建物や土地を活用していくかを巡って様々な議論が起こり、最終的には法的拘束力を持つ住民投票によって、大雑把に言うと「滑走路には何も新しい施設を建てない」ということが決まりました。これまで調べた様々な出来事や歴史は全てここで起き、その結果としての今の姿が目の前にあるのだと思うと、世界が少し違って見えました。

 SFCでは、街における市民運動や民主主義、その基盤となる政治教育といった観点でドイツについて深掘りしていましたが、一年間の留学では、哲学部政治学科に所属して、さらにその土台となっている政治思想や政治システム、ドイツの民主主義の基盤について学ぶ予定です。自分のテーマを頭の隅に置きつつも、地域研究のつもりで、すべてのことをよく観察し、よく学びたいと思っています。

SFCのドイツ語授業

 SFCのドイツ語の授業は、とにかく話してみたいと思えるから大好きです。履修者の人数が増えているとは聞きましたが、それでも比較的少人数のクラスで、文法と実践の両方を集中して学べるのはとても良い環境だと思います。

 日本で英語だけで生活することを想像してみてください。現地の言葉を話せるということは、本当に大きなことです! そしてそれをきちんと学んでから研修に参加できるなんて、すごいことだったんだなあと改めて今、思います。(現地の語学学校には、Duolingoだけで勉強してきたというポルトガルの学生もいました。それはそれで行動力と勇気に感激しましたが:))

 SFCでの学びを携えて、ぜひドイツでの生活を味わってみてください!